【ビール・ショートショート】 ひこうき雲に乗って : ビールの個性から想像した1000字程度のストーリー

ひこうき雲に乗って

「あっ、わりぃ!」
友人の朗(あきら)が、シャトルをとんでもない方向に打ち返す。優馬(ゆうま)は、何とかシャトルを拾おうと走り、懸命に身体を伸ばした。
ーーあっ、ダメだぁ!
シャトルは優馬が伸ばしたラケットの先をすり抜け、伸ばした身体を元に戻せない優馬はゴロゴロと芝生の上を転がった。
「アキラ、ほんとコントロール悪いなぁ。お前がテニスサークルだとはとても思えない」
芝生のカケラを身体にまとった優馬は、芝生の上に胡座をかいたまま、朗を責める。
「まあ、そう言うなって」
朗は悪びれたところがない。
遠くから、友人の声が聞こえる。
「ユウマ、焼肉やるってよ。俺らも行こうぜ」
朗はバドミントンで、散々、優馬を疲れさせたことを気にもせず、焼肉を始めた仲間の元に戻って行った。
優馬は、今日、大学のテニスサークル仲間と、屋外バーベキューに来ていた。大学を卒業して7年。屋外バーベキュー大会は、新緑のこの季節の恒例となっている。料理担当ではない、朗と優馬は、仲間が料理をしている最中、バドミントンに興じていた。というより、バドミントンの才能が皆無である朗に走らせられるだけ走らされた。朗はテニスは下手ではない。それなのに、バドミントンとなると、あそこまでノーコンになるのが、優馬には不思議だった。
ーーふうっ、汗だくだ……。
汗はかかされたが、新緑をときたま駆け抜ける風が心地よく、優馬は胡座のまま、空を見上げた。雲ひとつない青空だ。
ーー全く、青空っていうのは悩みがない。
いつもなら、爽やかな空が、今日はなんだか憎らしい。
一流ではないが、三流でもない文系の大学を卒業して、奇跡的に入社した一流商社で、この7年ガムシャラに頑張ってきた。一流大学出身の同期ばかりだったが、それなりの成績もあげ、昨日、大きな仕事を任される事になった。
(西アフリカを攻める。精鋭部隊を送り込むのだが、君も選ばれた)
昨日の部長の言葉が蘇る。思いもかけない事で、一瞬、唖然とした。自分より相応しい同期、先輩など他にいるだろー、と思った。オファーを受けるか、週明けにも答えを出さないといけない。
ーー俺にそんな大役務まるのかな……。
優馬は自信が持てなかった。アフリカは、中国などが強く、日本企業は全般的に後塵を拝している。厳しい仕事になることは間違いない。それに海外に赴任したら……。
なんの悩みもなさそうな青空を見ていると、「なんかあったでしょ?」と、横から声が聞こえた。彼女の美香子が焼肉を載せた皿を持って立っていた。お皿を優馬に「はいっ」と渡すと、優馬の横に座った。
「なんか悩んでいるね」
美香子は空を見上げた。
美香子とは、サークルで出会い、もう10年も付き合っている。美香子は、恐ろしいほど、優馬の気持ちを見通す能力を持っていた。
お見通しだなーーと思った優馬は、アフリカ行きのことを説明した。
「なるほど、それで自信がないって、逃げようとしてるんだぁ」
美香子は容赦ない言葉を浴びせてくる。
「逃げるとか言うなよ。まだ、断ると決まった訳じゃないし……」
優馬は口を尖らせ、皿を横に置くと、仰向けに寝転んだ。
「じゃあ、断るの?」
美香子が悪戯っぽい表情で、優馬の顔を覗き込む。
「……」
「ユウマは良く試合前にお腹痛くなってたね。今回もお腹痛いのか」
美香子も仰向けに寝転んだ。
「そういう意地悪な言い方するなよ。それに、今回、少なくともお腹は痛くない」
緊張しいの優馬は、学生時代、重要な試合になると胃が痛くなっていた。そういうこと全部、美香子は知っている。厄介と言えば厄介だが、得難い存在だ。
「お腹が痛くなっても、棄権したことない。それに、結構、試合には勝ったぜ」
「そうだね。じゃあ、行くんだ、アフリカ」
「……」
いつのまにか誘導されているような気がするーー。
「でも、海外赴任だせ……」
優馬は、一番引っかかっていることを口にした。
「……」
2人を沈黙が包む。
「あっ、ひこうき雲!」
沈黙を破り、2人は一緒に声を上げた。2人が見上げる青空に、一本の綺麗なひこうき雲が軌跡を描き始めた。
「一緒についてくよ」
美香子が唐突に言った。
「……」
ーー俺、まだプロポーズした覚えないんだけど……。
そう思いつつも、優馬は、「もちろんだよ」と答えていた。
ひこうき雲は、西に向かい、綺麗な軌跡を描き続ける。
2人の気持ちを乗せて。

//////////////////////////////////////////////////

このショートショートの発想のもになったビール
グランドキリン ひこうき雲と私 レモン篇(キリンビール)

スポンサーリンク
広告ー大
広告ー大

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする